静かである。大型台風がすぐそこまで近づいているというのに風もなく雨もない。嵐の前の静けさとはまさにこの事で、何とも不気味な感じの朝である。とりあえず今日は朝から工場の周りの片づけ等台風準備に精を出すことにしよう。何回も触れたと思うが、この仕事をしている限り台風は避けては通れない実に厄介な存在である。どれだけひどい目に遭おうとも負けるわけにはいかない。ただ粛々と乗り越えていくしか道はない。それは分かっているのだが、さすがに今回は相当の覚悟がいりそうである。 台風といえば子どものころに味わった伊勢湾台風が一番である。私たちは非難をしていたが、台風が通り過ぎた朝の光景が忘れられない。友達の家数件が倒壊していた。子供心に何とも言えない悲しさを感じた。その後通学の大きな鉄の橋が流されたのを知った。死体探しに走る消防団の人たちの姿もあった。学校には行けず、近くの寺で臨時授業をしたがそれはそれで楽しい思い出。新しい橋ができたのは2年後くらいだったと思う。完成式には鼓笛隊の一人として縦笛を吹いて渡った。小学校5年生だった。懐かしいあの頃を思い出してしまった。